秘密の森の沼地にて

わたしの泡は秘密なんです

壊した家を出たくせに

久々に大江戸線に乗るために、
2年前まで通っていたルートで帰る。

この車両に乗って、このエスカレーターをのぼり、あの店の前を通って、このエスカレーターに乗り、乗り換えて…

まだ全然覚えてる。
当たり前だよね。

このまま、あの家に帰ってしまいそう。
もう、あの家には誰もいないのに。
私が壊した、あの家。

あっこちゃんの「HOME SWEET HOME」を聴いては泣いて
さんざん、さんざん、泣いて
ようやくもう大丈夫かなと思っていたけれど、
やっぱりまだ駄目みたい。

涙があふれてきた。
マスク、ありがたい。

今、信じられないような生活を送っていて
ずーっとしたかった表現活動もできていて
コロがあっても生活の不安もなく
幸せなはずなのにな。

戻りたい、わけではない。
でも、
想像する。
このまま大江戸線に乗って
あの家へ帰る。
ダイエーだったイオンに寄って買い物して
散らかってる家に帰る。
家人Sと黒猫がいる。
もそもそご飯を作る。
Sにご飯を渡して
私はお盆にご飯をのせて敷きっぱなしの布団の上でテレビを見ながらご飯を食べる。

こんな生活はいつか変わるって思いながら。

幸せ、だった。

綱渡りみたいな生活だったし
すごく堕落していたかもしれないけれど、

やっぱり幸せだったんだ。

家人Sと家人Hと黒猫と私。
愛していた、あの家を。

ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい。

駆け抜けて駆け抜けて振り返らないで
今の生活が始まった。
もう戻れない。
今の生活を失ったら、また私は懐かしんで泣くのかな。

幸せというのは、たった今のことなんだ。

でも、急ぎすぎたから。
ちょっとしばらくは立ち止まって
壊したあの家を、振り返ってもいいかな。
涙をたくさん出していいかな。
必ず涙は枯れるから。