秘密の森の沼地にて

わたしの泡は秘密なんです

あんたたち、まだいたの?

誰もが自分の物語の主人公。

なんていう言葉、掃いて捨てるほどあちこちで目にする。
私は私で、
なーにが物語の主人公だ、どうせ私なんて誰にとってもモブみたいなもんで、そもそも世界の砂粒なんだよ・・・・
なんて、3流自己満映画の救いようもない自意識過剰なクズな主人公になりきって陶酔していやがる。

「物語なき、この世界」のいわゆる主人公という括りにあるであろう
普段は私のような、クズ、いや、クズにすらなりきれない中途半端でさえない
菅原(岡田将生)と今井(峯田和伸)は
事件らしきものの当事者になり、どうも困っていながらも「物語の主人公じゃね?」とハイテンション気味になったりして(笑)

こんなことでしか自分を物語の中に置けないさえない私たちだけど、
それを、ことごとく無意味なものにしてしまう
三浦大輔は、ある意味救い主のように感じる。

この作品を観ていると

何にでも意味を求めてヘリクツこねて物語を勝手に作り上げて
自分で作った物語の感想をせっせと文章にして「いや、私、別にみんなに見てほしくて書いてるわけじゃないですから」って言いながら
見て見てわかってオーラを放つ自分に

苦笑しながらポンポンと肩をたたいてくれる。

それで私は「あ、ああ、へへ・・・まあ、ね」なんて頭かいたり
もじもじしながら

まるで
おっパブの後に行ったソープでまた鉢合わせちゃって
恥部さらしまくりのみっともなさをどうすることもできずに
挙動不審な動きしかできずにいる菅原と今井みたいになる。

「映画大好きなんです!」って言うキャバ嬢が最近観た映画が「るろうに剣心」だったり
なんか知らんくせに
あいみょん菅田将暉の歌に恥ずかしさを覚えて苦笑する自分は
何に酔いしれてるんだかって、今度は自分自身に笑ったりするけれど

それもまた、何かの物語にしちゃってる。


「物語なき、この世界」という物語を、最後までそこから外れようとする
(後半のある場面で、キャバ嬢たちが居酒屋で身の上を話すことで
名もなき登場人物にもそれぞれの物語の主人公として生きているみたいな感じになって、いい話風になるところを次の場面でもう崩す感じ)
三浦脚本の徹底っぷりに、感嘆の声をあげつつ
それでもどうしたって、これは物語だ。

だとしたら、ほとんどの時間を
どうということのない事と恥で作られている私の日々はどうなんだろう。
なんて考えてしまったときには
最後の菅原の台詞

「早朝ソープ行こう」


を思い出して、私も物語から逃げてみようと思う。
物語ろうとしたら智子(寺島しのぶ)に


「あんたたち、まだいたの?」

 

って言ってもらおう。
誰も聞いちゃいませんよっと。

 

「物語なき、この世界」シアターコクーン
作・演出 
三浦大輔

出演
岡田将生峯田和伸柄本時生内田理央宮崎吐夢、米村亮太郎、星田英利
寺島しのぶ、日高ボブ美、増澤瑠凛子、仁科咲姫、有希