秘密の森の沼地にて

わたしの泡は秘密なんです

泣きたいような、なんともないような、

今年に入ってだったか、去年の暮れだったか
社内で前に付き合っていた人とばったり鉢合わせた。

彼は私が勤めている会社の関連会社勤務で
勤務地が違っていたからほとんど会わないし
こちらの会社に来るときは
付き合っているときはわざわざ私の部署に顔を出してくれていたけれど
別れてからはほとんど顔を出さなくなった。

でももう別れてかからかなり経ったということもあったのか
最近は、こちらに来たら挨拶に顔を出すようになった。
私はちょっと気まずい気持ちで目も合わせず謎の方向を向いて挨拶するのみだったが・・・。


ある日、廊下を歩いていたときに前から男性が歩いてきて
小さく手を挙げたので誰だ?と思ったら彼だった。
びっくりしつつ「おつかれさまです」と言ったら彼は笑顔で「おつかれさま!」と応えた。

 

なんだか嬉しかった。
6年付き合ったけれど後半はもう惰性で会っていた感じだったし
最後は尻切れとんぼみたいな別れ方だったし
私は未練も後悔も罪悪感もなかったから特別の想いは全くなくて
時々、どうしているかと思い出すくらいだったけれど、
普通に挨拶できたことが嬉しかった。


なんで嬉しいんだろうって考えて
ああ、そうか、彼が私とのことで何か不穏というか(苦笑)
嫌な思い出になってたらちょっとイヤだなと思っていたんだ、あたし。
まあ結局、自分のことを悪く思われていたらイヤだという
なんとも自分勝手な理由だ。
でもとにかくホッとした。


その彼が亡くなった。

 

関連会社からのお知らせで今日、知った。
亡くなったのは月曜日だったらしい。

 

まだ40代。
働き盛りだった。
私と付き合っているときから太り気味でメタボで
お酒は飲まないけど煙草はけっこう吸っていた。
死因はそういう関係の脳の病気だった。

ものすごい神経質で、仕事人間で
誰かに任せられなくていつも遅くまで残業していた。
最近も相変わらずそうだったらしい。
独身だし料理もしなかったからインスタントラーメンばっかり食べてたんだろうな。

当たり前だけどちっとも実感がない。
関連会社の社員で、業務上は関わっていなかったけれど
明日は焼香に行かせてもらうことにした。
遺影を見たら、少しは実感できるのだろうか。
亡くなったというお知らせの書面にある彼の名前は
同じ名前の別人のような感じに見える。


 

Tくん

私と別れた後、楽しく生活してたかい?

キミといて楽しいこともあったけど、思い出すのはつらいことばっかりだよ。
モラハラチックなことばっかり言われて
泣いてばっかりいたよ、私。
キミのせいで私は成人男性恐怖症になったぞ。
だいぶリハビリ出来てきたけれど、今もまだ成人男性と話すとき緊張するんだよ。
どうしてくれんだよ。

キミはいつも色んなことに怒ってて、色んなことをあきらめてしまっていた。
ひどい言動も、全部、そういう傷や穴からしてしまっていることだってわかった。
それで、私、自分自身を大切にするってどういうことだろうって
たくさん考えることができたよ。
今でもまだ考えているけれど、キミとのことがなかったら
いかに自分が自分をいじめて蔑んでいたのかって気がつかなかった。

会うべくして会ったんだよね。

 

ガンダムUC花の慶次のコミックスと三国志の文庫本、
それからガンダム三部作とバジリスクのBDを借りパクしたままでごめん。
パチンコと将棋を教えてくれてありがとう。
もう二度とやらないけれど、知らないことができて面白かったよ。
いや、将棋はつまらなかったかな。
だってキミは頭が悪くて勝負にならない私を詰ってばかりだったもんね。

おっとまた恨み節になってしまった。

 

恨んでないよ。
感謝してる、本当に。
私を好きになってくれてありがとう。
別れたあとのキミが、少しでも傷や穴を癒せる誰かや何かに出逢えていたらいいな。

明日は久々にキミが住んでいたT町に行くよ。
よく二人で行ったラーメン屋に寄ろう。


天国でお父さんお母さんと仲良くしておくれ。
いつか私がそっちに行ったら
昔のことは忘れてまたZガンダムの話でもしよう。



はぁ。
この場があってよかった。
菫さん以外は誰も私が誰だか知らない場所。
泣きたいような別に大丈夫なような、そんな気分を出せて
少し気がおさまった。